お侍様 小劇場

    “初秋のとんだ判じもの?” (お侍 番外編 65)
 

        



 とて。公私ともに大変な旦那様と、何も同んなじ目に遭わんでよろしい。むしろ家族は安んじて過ごしてくれねば、頑張る甲斐というものがないと…いやまあ、そこまで論を掘り下げる話でもないままに。今日は通常の商社勤務へ出てった勘兵衛と、表向きには“暑さ対策”のため、実質は…午後は学園祭の準備に当ててよしとの学校側の温情、午前で終しまいという高校の短縮授業へと出てった久蔵を送り出し。掃除に洗濯、メールのチェック、消耗品や食材のチェックに、郵送物の中に届け出のいるものはないかの確認。そういった日常雑務をてきぱきと午前中で片付けてのさて。

 “よっし、完了っと。”

 レタスやベビーリーフといったちぎり野菜のトマト風味ドレッシング和えという簡単なサラダと、パン粉をつけるまでは済ませたので後は直前に揚げるだけという黒豚のヘレカツ。ズッキーニとナスのラタトゥーユに…といったラインナップ、晩ご飯の支度を整えておいて。さあ、いつでも帰ってらっしゃいと、あとは久蔵の帰宅を待つばかりとなった昼下がり。ちなみに、小学校のように近所にある学校じゃあなし、登下校にはJRを使う程度に距離のある高校へと通う身の久蔵殿で。食べ盛りな年頃の彼なので、せめてお弁当食べて帰ってらっしゃいと、昨年の夏休み前の短縮授業の頃にも言ってはみたのだが、
『〜〜〜。(否、否、否)』
 その分も早く帰って、シチの作ってくれる昼餉を食べたい。それともお弁当を作る方が手間はかからないの?…と、あの真っ赤なお眸々でうるうると見つめる格好にて逆に問われてしまったため、
『手間だなんてそんな。』
 久蔵殿が喜んで食べてくれるものなら、何をどうとでも頑張りますのに。ましてや、前の晩のおそうめんの残りへショウガ風味のかき玉あんをかけただけの“京風にゅうめん”でも美味しい美味しいと食べてくれるお人、どんな手間をしているものと言って下さっておりますかと。感じやすいお年頃同士か、互いの気遣いへ感動し合って以降は、あんまり勘ぐらぬようという方向で、気をつけている七郎次であるらしく。……心くばりは可愛らしいんだけれど、ややこしくもある母と子です、ホンマに。
(笑)

 「…あ。」

 わざわざチャイムは鳴らさぬお人。ましてや、静かな振る舞いをなさるのではあるが、それでも玄関先の気配を察し、お帰りだなとスリッパぱたぱた、お出迎えにと立っていった七郎次が、

 「……………あ?」

 扉を後ろ手に閉じたところの、間違いなく当家の次男坊へ。だっていうのに、表情を止めての、怪訝そうな声を思わず発してしまっている。まだ夏のそれである開襟シャツに地味な濃色ズボンという制服姿なところも、授業のみなのでという学生カバンだけという私物も、朝見た姿と変わらぬものの。

 「…どうしましたか、その恰好は。」
 「〜〜〜〜。」

 このくらいの年頃ともなれば、最近は男の子だって色々とおしゃれにも気を遣うそうで。髪のセットに女子並みに時間が掛かる子がいるのは今更だとしても、洗顔料だの化粧水だの自分専用のを使うというし、にきび対策なんて序の口で、眉を揃えるのも当たり前。爪も清潔にという範疇以上、つやつやときれいに磨く子も珍しかないのだとか。そういう風潮からすれば大いに遅れまくりの次男坊様ではあったれど、それでも身だしなみには気を遣う子だったはずが。裾に癖があってのまとまりが悪く、それがためにふわふわした軽やかな印象の強いシルエットとなる金の髪には。それでもちゃんと櫛を通していたはずが、今は…何やらあちこちへ跳ねての乱れまくりになっており、その下のお顔にはどこでつけたか黒っぽい汚れが一条。手の甲にも似たものがあるので、どうやら汚れたその手で擦ったせいかと思われて。ほのかに油っ気の混じった汚れは、時折平八が作業服につけているものにも似ているような。それよりも目立つのが、右脇側に広く刷り着いた白っぽい汚れで、ズボンが濃い色だから目立つのであって、よくよく見ればシャツにも同じような汚れが。まさに、体を張って何かしら受け止めましたという範囲ではなかろうか。……で、一番目につく“?”が、

 「その、箱ごとリンゴはいかがしました?」
 「〜〜〜。」

 大きさはミカン用のS箱くらいだろか、それでも大した数のリンゴがどかどかと入った蓋開きの段ボール箱で、あんまり厚みのない学生カバンを小わきに抱えて、これを両手で掲げ持ち、駅からここまでをうんうんと帰って来た彼であるらしく。

 「大変だったでしょうに。電話を下されば迎えに参りましたよ?」

 これからお風呂にゆくのではありますが、それでも着替えたほうがいいでしょね。服だけ替えてキッチンへ来て下さいな。お昼ご飯に三色丼を作ってありますよ? ええ、鷄そぼろと炒り卵の。ああ、お手と頬のこれは自転車の油汚れみたいですねぇ。え?汚れるのに何で触ったかって? だって、下にもしかしてお怪我をしていても、久蔵殿、言わないじゃありませんか。大丈夫、ヘイさんからこういう油落とし用のハンドクリームをもらっています。久蔵殿もそれで落としましょうね? ……と。




          ◇



 リンゴのお土産を受け取りながら、早速のお世話を焼いてるおっ母様、この恰好で結構な距離のある駅からここまで帰って来たとあって、人目もさぞや集まったに違いないのに。そっちは意に介さなかった彼なのだろなというのが。話だけを聞いた勘兵衛にはいともたやすく想像が追いついて。

 「むしろ、お主から…あれこれ訊かれたり手をかけてもらったりの方へこそ、
  随分と恐縮がっていたのではあるまいか?」

 「凄いですねぇ、勘兵衛様の千里眼。」

 まだそこまで語っていないのにと、やわらかそうな緋色の口元へ、きれいに揃えた指先を当てた女房殿。だが、

 “判らいでか。”

 丁寧なお酌で猪口にそそがれたのは、人肌にという燗をつけた日本酒。それを笑みの乗った口元へと染ませつつ、内心では呆れ半分な苦笑がこぼれて止まない勘兵衛でもあったりし。もはやすっかりと陽も落ちて、何処からか聞こえるは りいりいという虫の声。微妙に遅い帰宅となり、それでも恋女房の作った夕餉を頂いてからリビングへと移って、本日の出来事を聞いている御主様であり。
「だってですね。」
 日頃の身だしなみの行き届きように加えて、反射のいいことも相俟って、衣服をああまで汚すなんて不審でしたし。それに、売り出しのチラシさえ見た覚えのなかったリンゴの山でしたし、

 「想いもよらないものだらけの、
  まるで“判じ物”みたいな恰好でお帰りの久蔵殿だったんですもの。」

 髪からもほのかに、まだ早いキンモクセイの花の匂いが立っていらしたので、誰か香水をつけた女性にしがみつかれましたねとおっ母様が問えば。ぎくりと肩を震わせてから、

 『バッグを。』

 引ったくりから強引に下げ紐を掴まれて、それに引きずられての転びかかってた女性を受け止めたのだそうで。それが階段でのことだったので、久蔵殿より背丈の低い相手だったにもかかわらず、髪に匂いが移ったらしい。勿論、引ったくりからも無事にバッグを取り戻したそうで。

 「…どうやって。」
 「そこまでは訊いてません。」

 こうなってああなってなんていう、細かい詳細を話してもらうには、きっと随分と間が要ったと思いますのでと。次男坊がいかに無口かへと苦笑を見せた彼だったものの、

 「それで、引ったくり男を交番へ突き出してから、
  駅まで戻りかかったところ、
  住宅街の坂道で自転車がノーブレーキで突っ込んで来たらしいのですよ。」

 車が突っ込んで来たよな事態よりも避けようはあっただろう。ましてや久蔵殿ですからね。何なら車が相手でも避けられたでしょう反射と跳躍力をお持ちだったのですが、その自転車というのが、母子での二人乗りという相手だったんで。咄嗟に手が出ていて、受け止めるようにして捕まえていたのだそうで。

 「そのままの加速でぶつかるなり転んでしまえば、
  前かごに乗っけていたお子さんが大怪我したかも知れませんものね。」
 「…どうやってそうと聞き出せた。」

 え? だって、ズボンに残っていた白い汚れは、コンクリとかアスファルトの地面に接して張りつけて来たものらしかったので。私は乗りませんが、ご近所の小学生とかがよく乗ってますでしょう? 勢い余ってタイヤをズボンへ擦られると、ああいう汚れがつくのも体験済みです。

 「ですが、ちょんとくっついた程度じゃあ、
  ああまで…払っても落ちないほど強くは刻み込まれやしません。」

 それに、手の甲で頬を擦ってた。久蔵殿は滅多にそんな仕草はしませんよ。髪が乱れて目元や頬へかぶさって擽ったかったか。となれば、そうまでの活劇をなさったということでしょう? 自分だけへの危難なら避けて済ませるお人ですし…と思ったら、ああ誰かを庇ったんだなと思い至りまして。それでそうなのでは?って訊いたら、

 『〜〜〜。(…頷)』

 その通りですとの応じがあったとか。

 「その方がどうしても受け取ってくださいと言うものだからと、
  山ほどのリンゴを頂いてしまったとかで。」

 荷台にくくっていたのがリンゴ箱2つ。母上は露店商をなさっておいでで、仕入れたリンゴを自分で出店を出している場所まで運んでらしたのだとか。そもそもそんな無茶をしていたから、タイヤの空気圧が張って弱ってたブレーキが傷んだのでしょうねと、困ったお人があったものですと言いたげに眉を下げた七郎次ではあったものの、それでも大事がなくてよかったと喜んでいるようなので、

 「さようさの。」

 大事がなかったは重畳と、こちらもうんうんと同調して見せた勘兵衛だったのだけれども。

 『……深くは聞くな。』

 実を言うと、いつもの如く 遅くに帰途へついた勘兵衛へ、もう寝たと思われていたその久蔵からのメールがあって。滅多にそんなことはしない次男坊だったのでと折り返しに電話をかけて。そうやって当人から伝えられたる“真実”はというと、

  ―― 駅までの近道の途中、
     とんでもないことと遭遇してしまった彼だったらしくって。

 高校からだと裏山にあたろう、JRへ向かうのならば遠回りになるよに見える方向。道なんてないそちらの方を選んでの、強引にも直線コースとしたその進路上に。あまり人の通らぬ線路沿いの土手の上、高いフェンスに囲まれた…恐らくはJRへの送電基地だろう、コイルが角のように何本も立ってる、大きめの角樽のような変圧器がごちゃりと据えられてある区画があって。まずは危険だし、何かあってはJRの運行へも支障が出るための立ち入り禁止を敢行すべく、何重にも施されたフェンスの奥なため、単なる通学路にしている程度では知る人もあんまりいないような代物なれば。そうであっても関係ないよんとばかり、軽やかにひとっ飛びする恐ろしい脚力と身軽さを持つ、今様“忍者少年”の久蔵だからこそ通りすがれたそんな場所で。テロ活動と呼ぶほどの組織あってのこととも思えぬが、世間が騒ぐの待ち構えてるには違いなさそな、どこか歪んだ いけない青少年が、手製の爆弾だか発火装置だかを仕掛けてた。単なる踏み切りの都合、足場としてそこへと着地しただけな久蔵には、何をしているものなやら、実は判っていなかったのだが。まずは間近へいきなり降って来た存在へ、

 『ひっ、ひぃぃええぇぇっっ!!』

 滑稽なほどのリアクション、文字通り 躍り上がって驚いた青年だったらしく。
“それは そうだったろうよ。”
 ありゃ人がいたかと久蔵の側でも意外に思ったものの、驚かしてすみませんとの一礼残し、とっとと退散しかかったとか。
(それもどうかと) そんな久蔵へ、

 『ま、待てっ! お前っ! このことを通報する気だなっっ!』

 捨て鉢になった一般人は結構強い。というか、既にどこかが弾けていたらしい青年は、さほど雄々しく見えない体格だのに、恐れ入って逃げ出すどころか、それが武装か鉄パイプを振り上げると、久蔵へと目がけ突進して来たらしくって。
『…避けなんだのか?』
『…。(頷)』
 だって背後には変圧器があった。そんな装置だとまでは知らなんだけれど、あんなもので叩いたら、太い電線を周囲から引き込んでのまとわしたダルマはきっと、爆発するか、さもなくばこのとち狂った男を感電さすかするんじゃないかと思ったらしく。

 『兵庫が決勝で避けなんだの、思い出した。』
 『???』

 何を喩えに出した彼だったのか、すぐには判らなかった勘兵衛だったが、
『ああ…。』
 同校対決になってしまった都大会決勝。選りにもよって部長の兵庫殿との対戦となった久蔵であり。3本中1本ずつを取り合い、最後の1本で決まるとなった立ち合いで。久蔵が鋭い突きを繰り出しつつ突っ込んで来たのへと、見切ったくせに兵庫殿は動かなかった。久蔵とて そうと意図した訳ではないながら、されど避ければ背後にいた審判がそれを浴びるよな配置に立ってた彼であり、それへと気づいたからこそ動けなかった先輩さんだったのを、こんな格好で思い出したと言いたかったらしい。

 『……。』

 そんな回顧も後
(のち)のこと。鉄パイプを掴み止め、腕ごと懐ろへ抱き込むようにし。軌跡の逸れたパイプの切っ先が、フェンスの金網を切り裂いたことで、それがからんで動けなくなったところへと、間近になった男のみぞおちへ膝蹴り食らわせ昏倒させて。そんなこんなで動けなくした怪しい青年、どうしたものかと案じたのも一刻。仕方がないかと携帯で東京に“草”として詰めている木曽の者を呼ぶと、そりゃあ素早く駆けつけるところは駿河の“草”の方々と変わらぬ優秀さ。これこれこうと…語るまでもなく、久蔵が随分と そのいで立ちを汚し、怪しい装置があったのを見て全てを断じ、後はお任せをと、警察への通報などなど引き受けてくださったのだが、

 “通りすがりの果実商は苦しい言い訳だったの。”

 久蔵がひょいとひねって失神させた怪しい青年は、何でそんなものを持っていたのか、匂いへの偏ったフェチだったか。キンモクセイの香りのする室内用芳香剤をその身へと振りかけており。もしかして…自分の足取りを警察犬に気づかれまいとして、この季節にはありがちな、されど強烈な匂いでカバーしたのではないかとのこと。逆効果だっつうの。
(苦笑) 駆けつけた木曽の助っ人さんは、久蔵の身へも移ったその匂いへ気づいて下さり、
『仰せにならねば判らないのでは?』
 そうと言い足して下さったのだけれども、
『〜〜〜。(否。)』
 真摯なお顔でかぶりを振りつつ、七郎次は敏感だから きっと嗅ぎ分けると言い張った
(?)久蔵であり。
『ですが、久蔵様。』
 どういうフレグランスか、リンゴの匂いもしておりますがと付け足され。っが〜〜んん、よろよろ…と、その場に膝を折り頽れ落ちた次代様だったのが。高階さんだったら慣れもあったのだろうけれど、その場に駆けつけた木曽の草、まだまだ若い衆には随分と衝撃的な図だったらしいのは、まま別のお話とするとして。

 『こ、こうしましょう、久蔵様。』

 相手を抱え込んだ格好でフェンスに押し込まれたことで、制服が白い跡つきで汚れてしまわれておりますこととの合わせ技。人助けの格闘をなさったのでと、そんな匂いも移ったことにするのです。
『…でしたら、そうですねぇ。』
 何とか捻り出して下さった、引ったくり逮捕とリンゴ売りのおばさんを助けた…なんてゆ、同じ日に一気に降りかかった危難としてはあり得なかろう筋書きを、すんなりと納得してしまった七郎次も問題か。だがだが、

 “社会悪を退治したことよりも、
  随分と危険な近道していることを七郎次に知られることの方が、
  久蔵には困る事態だったわけだの。”

 正直に話したら、きっと叱られる。なんて危険な近道をなさっておいでか、しかも、そんな狂犬のような存在へ、まだ正式にはお務めに出てもない身でありながら、素手で立ち向かうなんてと。全て片付けてから、しまったぁと狼狽してしまったワケであり。そっちの方が先々で問題かも知れぬと、木曽の次代様の困った価値観への苦笑が絶えない、勘兵衛様だったらしいです。









   ■ おまけ ■


 細く開けている窓の外では、何の虫だか涼しげな声音で鳴いており。秋の宵の爽やかな静謐を、心地のいい音色で縁取ってくれているかのよう。この虫らの声もそうだが、幼い者らが苦手なことへそれでも頑張ったらしき拙い手筈のお話へ、ついついお顔がほころんでしまう勘兵衛であり、

 「勘兵衛様? いかがなさいました?」
 「いやなに。…そうそう、銭湯は楽しかったか?」

 知らせちゃならない張本人に、感づかれては何にもならぬ。久蔵もそうだが、せっかく知恵を出した若い“草”の者の健気さも愛おしいからと。彼らに免じてのこと、話を先へと進ませる惣領殿であり。それは自然な話しようだったためか、七郎次もさして不審には思わなかったようで、

 「はい。
  随分と空いていて、まるで貸し切りのような一角もあったほどでしたよ?」

 久蔵殿のお顔についていた、機械油みたいな汚れもあっさり落ちまして…と、そんな風に話を続け。まるで小さい子供相手のように、ほらほら洗って洗ってとじかに手を出しまでしてわたしが構いつけるもんだから。しまいには、若いお人は新陳代謝がいいのだから、案じることはありませんようとヘイさんからも笑われてしまいました…と続いた話しようへ、

 「さようか。家でもそうしておるのかと思われたやも知れぬな。」
 「ええ? それは困りますねぇ。」

 困っておると言いつつ微笑っておるではないかと、二人、声を揃えて吹き出してしまったほどに。ここまでは勘兵衛もまた、そうかそうかと微笑ましいというお顔でおいでだったのだけれども。

 「それで、ですねぇ。」

 わたしと久蔵殿が妙に色白なせいですか、肌脱ぎになる男湯で歩き回るたび、通りすがりの皆さんがはっとして咄嗟にどぎまぎなさるのが何だか可笑しくて。温水プールや談話室などから女性が紛れ込んだとでも思ってしまうのでしょうか、男だよな男に間違いないよなと確認してなさるような視線が、なかなか去らないもんだから。

 「吹き出しそうになるのを堪えるのが大変でしたvv」

 勘兵衛様と行ったときは、あんなことはなかったんですのにねぇ、なんて。再び思い出したものか、やさしげな顔容
(かんばせ)を楽しげにほころばせた七郎次だったのだけれども。

  「…見られたのか?」
  「はい?」
  「そなたの肌、多くの者共に見られたのか?」
  「えっと、平日でしたから、
   そんなに沢山はおいでじゃあなかったと思いますが。」

 こらこら奥方、うんとぉ…なんて思い出してないで、そこで気づけ。さっきまでと違って、一緒に笑って下さらない御主だってことへ。でないとご亭主、あちこちしらみつぶしに当たって、平日の昼間っから銭湯に来ていた顔触れを調べ上げ、奥方の柔肌を見た記憶に上書きされるような何かしらを刷り込みにと、謎の徘徊をしないと誰が言えようか……。(あな恐ろしや…)




  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.09.07.


  *さては、勘兵衛様が同行なさったときは、
   館内の男衆全員、実は島田一族の“草”の方々だったのでは?
   そこまでしますか、むっつり勘兵衛様。
(こらこら)

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